ラジオ
一人で自営を始めたとき、事務所に一人きりだということは最初からわかっていたことだったが、人の声がないことをじわじわ実感してきた
会社員時代ときに人間関係は面倒で人の声なんか聞きたくないときも多かったが、全く聞こえないのは思ったよりずっと寂しいことに気づいた
ただ音楽を流しながら作業するより人の声が聞きたくなった
石川啄木の
ふるさとの 訛(なまり)なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにゆく
とは違うかもしれないが取引先の電話以外の人の声が聞きたくなった
ラジオはそんなとき非常にありがたかった
つまらない番組 くだらないコーナーでもとりあえず仕事をしながら聞いていた
真夜中、締め切りが迫った仕事をしているとき放送大学を聞いた
全く頭には入らなかった
今でもあまり思い出せないが焼き畑農業のこととか誰がそんなこと研究しているんだというようなことを淡々と抑揚のない声で講師がラジオの向こう側で話していた
焦って仕事をしていたしそのくらいの話し方が耳障りでもなくちょうどよかったのかもしれない
とにかく深夜、誰もいない部屋で孤独からはなぜか解放された気がした
今はYouTubeやアマプラなど自分が自営を始めた頃よりずっと多くのコンテンツを流すメディア、アプリが増えた
日中、自分はまだラジオを聞いている ラジオは新しいメディアにたどり着けない行き場のない中高年層のオアシスかもしれない